大館曲げわっぱ
【秋田・大館市】
使い勝手の良さと美しさ
全ては使う人のために吸湿性に優れた白木の曲げわっぱはご飯のおいしさを引き出し、傷みにくくする魔法の器。天然杉の美しい木目と素材の良さを活かした曲げわっぱは、世代を超えてたくさんの人に支持されている。
柴田慶信商店
柴田慶信、柴田昌正
米粒がつぶれて入り込まないよう、おひつの底の継ぎ目はろくろを使って丸く仕上げてある。“使う人が、本当にいいと思ってくれるものを作りなさい”という秋岡氏、時松氏からの教えから生まれた、手入れがしやすいロングライフデザイン。蓋やへりなどの細かい凹凸もろくろややすりで丁寧に仕上げているため、手にやさしくなじむ滑らかさ。
2.丸太で仕入れた天然杉は板材に製材後、作る商品に合わせて部材を切り出す。曲げたときに重なる両端を薄く削る「はぎ取り」の作業は曲げわっぱ作りの中でも一番難しく、大事な工程。熟練した職人が手掛け、全体が同じ厚みになるよう仕上げている。
「はぎ取り」した板は前の晩から水をはった湯船に入れて水分を吸わせ、80度で煮沸してから取り出し、一気に曲げる。木ばさみではさんで10日ほど乾燥させることで木に曲げが定着。
曲げや接着、継ぎ目を桜の皮で閉じる、底の取り付けといった各工程は分業制。一人が同じ作業をずっと続ける方が生産効率は上がるが、次の世代を担う職人たちがすべての技術を身につけられるよう、ローテーションで仕事をまわしている。
受け継がれる、人にやさしい丸い形のひみつ
長い歴史がある大館曲げわっぱの中でも、『柴田慶信商店』は昭和41年創業と後発。「初代の父は24歳の時に脱サラ。曲げわっぱを買ってきては分解して…を繰り返し、独学で道を切り開いてきた、ちょっと型破りな経歴の持ち主」と話してくれたのは2代目として会社を引き継いだ息子の昌正さん。創業時、父の慶信さんは既に結婚しており、昌正さんも生まれていたが、はじめは全く売れず、貧乏暮らしが続いていた。 転機が訪れたのは昭和50年代後半のこと。技術指導で秋田を訪れた工業デザイナーの秋岡芳夫氏と当時東北工業大学の講師だった時松辰夫氏と出会い、ろくろの技術を習得。その技術を活かしながら、時代と使う人のことを考えたデザインや商品作りに取り組んだ。『柴田慶信商店』の商品の特徴である、白木で無塗装、角がなく丸みのあるデザインはここが根っこになっている。「道具は使う人が主役、常に使う人の声を聞いてものづくりするようにしています」と昌正さん。東京の直営店や展示会などでヒントを得て、生まれた新商品も多数ある。
平成30年にはJR大館駅前のビルをリノベーションし、ショップ&ギャラリー、弁当箱やパン皿の製作体験スペース、カフェ、コワーキングスペースが同居した『わっぱビルヂング』をオープン。昌正さんは「見て、触れて、曲げわっぱのことならなんでもわかるという場所を作ることは、父の夢でもありました。伝統工芸をハブにさまざまな人が集って交流することで、大館が元気になってくれたらうれしい」と話す。産地のこれからと数年先、数十年先の未来を考えながら、父譲りの思い切りの良さと手腕で曲げわっぱの普及に努めている。創業者である柴田慶信さんと2代目・昌正さん。慶信さんは「俺が元気なうちは失敗しても助けてやれるから、やりたいことをどんどんやれ!」と昌正さんを後押ししてくれるという。
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